切迫流産を止める薬。
そんなものはいらない。
もう手立てはない、救うことは出来ない。
そう願う若い母に、医師は急に態度を変えた。

数日後案内された広い病室で一人。
看護士がやってきて、もう1度考え直せ、
どうしても無理なのか、私たちはできることならしたくない、
もう1度話し合ってみたらどうか･･･

もう母の耳には届かなかった。
悩みに悩んで考えに考えて、今ここにいる。
こうするのが一番、誰の未来も不幸にしない。

今この我が子を、生かすも死なすも自分次第。

10ヶ月、共に過ごしてきた我が子を、
一人産み落としてどうすることも出来ずに、
人知れず遺棄する他なかった母。

そんな悲しみの母親を探し出して、どうするつもりなのか。
罰を与える？
死亡届を提出しなければならない？
殺人罪で問われる･･･？

生まれてしまった我が子を抱いて、宛てもなくさまよい、
冷たい空っ風の吹く河川敷へたどり着き、
生まれたばかりの我が子を置いて去る、
その時の彼女の思いは、その悲しみは、
誰がわかってやれるのだろうか？
誰が救ってくれるのだろうか？

　子供ができたら

何が何でも生めばいいってもんじゃない。
育てないのが悪いんじゃない。
捨てたのはヒドイ母親だからじゃない。

子供にも尊厳はあるけれども、
まだこれから長い人生を歩まなければならない、
新しい人生を歩み始めた彼女の、
未来が、将来が、気がかりでならない。

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